7月28日(火)朝うすぐもり、のち快晴、のち…

 

 7時半ごろ目が覚めるとアンナが横にいない。階下に降りると、アイボリーホワイトのラッカーをダイニングの窓枠に塗っている。「トイレで目が覚めたから、そのまま起きちゃった」。昨日のよりさらに大きな「おしるし」が出た、加えて、間隔を置いて痛みが来ているという、激しい痛みではないが。「前駆陣痛かな?」とアンナ。時間を測る。間隔は少しづつ延びているようだ。足マッサージをすると「眠くなってきたわ」。そのままカウチで寝てもらう。私が書き物をしていると、彼女、痛みが来るたびに起きて、私に報告してから、また寝直している。

 10時ごろ彼女が起きたので、リンゴを食べてもらってから、ヨガ。私はヨガニドラだけ。

 ウィーンの領事館より電話。基本的に、先日メイルで送った書類を領事が確認してくださって、事実上、サニーの胎児認知が成立したとのこと。なんと嬉しいこと。添削した書類を、返信のメイルで送っていただき、もう一度電話で説明してくださる。「お体ご自愛ください、良い出産を」とおっしゃる。なんとも心暖まる思い。

 庭に出ると、オレガノの小さな花が群生している茂みに、蜜蜂が無数。まるで彼らのパラダイスのよう。太陽が燦々として、日向は相当に暑い。「今日レストラン行かないでよかったわ」とアンナ。確かに、こんな日は屋内に居るのが一番。

 アンナの痛み、繰り返しやって来る。時に長く、時に短く。間隔もいろいろ。明らかに前駆陣痛のようだ。助産婦のエルザは明日の検診を提案していた。「これなら前駆陣痛中にCDE検査もできるわ。彼女一流の勘でタイミングを予知出来たのかしら?」。私はこの百戦錬磨のエルザに、良い意味での魔女のイメージを重ねてしまう。「私のお腹、形が変わってきたみたい。下に降りて、飛び出しているわ」。出産が遅れることが、長い間、我々の心配の種だった。大きく遅れる可能性は低くなったが、逆に早いとすると、もろもろの準備が出来ていない。二人して「もうちょっと待って」とサニーに話しかける。

 夕刻アンナは元気を出して、イントランスホールの扉にラッカーを塗る。サニーからの連想もあって鮮やかな山吹色。このアップビートな色彩は、ブエノスアイレスのカミニートにありそうな色なので、このドアを「カミニート」と呼ぶことにする。ただあちらが極彩色でこちらが単色という本質的な違いはあるが。私はまずバスルームの清掃、それから外の鉢植えのケア。夕立が来そうな雲行きに、干してあったベイビーシートのカヴァーを取り込むと、ポツポツだった雨脚が急にフルパワーの全速力に。打楽器的な霰まで加わって、壮大なスペタクル。そのフィナーレには見事な二重の虹、アンナと二人で二階のバルコニーから鑑賞する。

 夕食後、小散歩。短時間の雷雨であったのに、前の小川はあふれんばかり。

 帰宅して、サニー用ベイビーベッドの設営。我々のベッドの延長のような形にするので、両者を固定する方法に無い知恵を絞る。アンナはこの間、出産の場となる予定のリビングルームに、暗め、かつカラフルな照明を設置。

 まだ出産まで数日あるので、ベイビーベッドは仮設のつもりだったが、アンナは今夜はこれを設置したまま、寝たいという。「あと数日で三人の生活になるなんて信じられない。この小さなベッドに三人めが来るなんて」「僕も想像がつかないよ」「私たちに出来るのかしら?」「そうだな、やってみるしか無いな」。

 夜半、また雨になった。熟睡。

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